ちょっとズルい眼鏡橋┃もりきち

ちょっとズルい眼鏡橋

長崎は年間3,000万人もの観光客が訪れる。観光で栄えるまちと言っても過言ではない。そんな中でも、ド定番な観光地というのはやっぱりあるもので、出島、グラバー園、中華街、稲佐山の夜景などがそれにあたる。

その中でもフォトスポットとして行く人が多いのは、眼鏡橋。眼鏡の形をした橋の上に立って、橋の反対側から写真を撮ったり、橋の下に降りてハートの石を探してそれと一緒に写真を撮ったり。昼と夕方の日の傾き方の違いでも眼鏡橋の見え方が変わるから、ちょっと違った世界に来たような感じも味わえるこの場所は、色んな写真の撮り方を楽しめる人気な観光地である。

ただこの眼鏡橋、油断している観光客には、たちの悪いイタズラを仕掛けてくるから注意しなければならない。特に眼鏡橋の上で写真撮影をするときは、ポケットやリュックに細心の注意を払う必要がある。

長崎の眼鏡橋は観光客のポケットやリュックから小銭を取り出す習性がある。観光客は皆、人が小銭を投げて眼鏡橋の中央の橋脚部分に乗っけていると思っているようだが、あれは人が投げているのではなく、眼鏡橋の自作自演である。

人からとった小銭を自ら橋の上に乗っけて、いかにもそれらしく振舞っているだけなのである。まんまと騙された観光客は「私も投げて乗せてみよう」なんて言って挑戦するものだから、眼鏡橋はなおさら得しているというわけだ。沢山のお金を巻き上げることができた日は、眼鏡橋のアーチが少しキュッとなる。眼鏡橋がニヤニヤと笑っている証拠である。

長崎県民は9割がたこの事実を知っているが、皆が目をつむっているのだ。というのも、眼鏡橋にお金を取られると、幸運が訪れるという言い伝えがあるからである。

そんな眼鏡橋であるが、最近は電子決済化が進み財布を持ち歩かない人が増えたせいで小銭を盗むことが難しくなっているようで、新しく電子マネーを盗む術を身につけ始めているらしい。眼鏡橋の上でスマホから決済音が聞こえたときは、残高をぜひとも確認してほしい。きっと5円ほど減っているはずだ。

でも、怒らないで。きっとあなたには幸運が訪れるから。

Photo by Photo IRIS (※編集部にてトリミングを行っています)

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