シュガーロード┃林 春代

シュガーロード

室町時代末期から江戸時代にかけて、西洋や中国との貿易で日本に入ってきた砂糖は、日本の人々の食生活に大きな影響を与えた。なかでも海外貿易の窓口であった長崎と小倉をつなぐ長崎街道沿いには、砂糖や外国由来のお菓子がたくさん流入して、他の地域では見られない独特で個性豊かな食文化が花開き、いつしかそれに憧れた人々からシュガーロードと呼ばれ、多くの人が行き交うようになった。

シュガーロードは食文化でも有名ではあるが、また別の噂が人々を魅了していた。シュガーロードを通る前には関所で荷物のチェックと性格診断を受けなければならない事になっているのだ。

それに合格すると通れるというのだが、シュガーロードを通った人達はどんどん健康的になり、肌艶も良くなって、経済的にも豊かになり、みんな笑顔になっていくというのだ。

あるとき、長崎に行こうとした男が関所で荷物のチェックと性格診断を受けたところ、あなたにはどうやらこちらの道がふさわしいようですね、と、シュガーロードとは違う道の通行証を渡された。

示された方に歩いていくと、入口には【ソルトロード】と書かれている。

その道は暗くて寒くて怖くなるような狹さで、足元も悪くアップダウンばかりが続く厳しい山道だった。足はガクガク、額には大汗、心身は疲れ果て必死の思いで長崎にたどり着いた男は、シュガーロードから出てきた友人を見かけた。

汗一つかかず幸せそうな笑顔を見て、男は無性に腹がたち怒りに任せてかけよって尋ねた。

「なんでオマエはシュガーロードを通れたんだ!」

するとその男の様子を見た友人は答えた。

「あー! オマエもしかして【ソルトロード】で来たの? それは大変だったな! ご苦労様。オレも昔は【ソルトロード】だったから、オマエの気持ちがよく分かるよ。オレもシュガーロードの通行証がなかなかもらえなくて悔しい思いをしてきたさ。オマエがどうしてもシュガーロードを通りたいなら、秘訣を教えてやってもいいけど…知りたい?」

友人が確認するように男の目を覗き込んだ。男は負けず嫌いから初めは首を縦に振らなかったが、しばらく考えてゆっくりと頭を下げた。

「…知りたい。教えてくれ!」

友人はニヤッと笑う。

「本当に簡単な事さ。でもオマエに出来るかな?変えるのは『甘さ』。自分にも他人にも甘くなったらいいんだ。オマエは自分にも他人にも厳しいだろ? それじゃいつまでたっても『しょっぱい』道を通る事になる。」

そうか! 確かに友人は以前より明るくなったし優しくなった。昔は人に対してよく怒ってケンカもしていたけど、ここ最近は笑ってばかりいる。

自分にも他人にも甘く優しくなる事が心や体の豊かさをもたらし、さらには富までもたらしてくれるシュガーロードってすごいな!

男は自分への『甘さ』不足を反省し、もっと優しくなろうと心に決めた。

先を急ぐ友人が男の方を振り返る。

「だけど最近急にシュガーロードを通る人がすごく増えちゃって、ちょっと過『密』状態。人の熱気で肌着がベタベタしちゃうし、そろそろ拡張工事してほしいな。」

友人は大きな声で笑った。

Photo by 森 恭佑 (※編集部にてトリミングを行っています)

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