「長崎を馬鈴薯大国にしよう」
そんな一言で始まった当プロジェクトから、見るも無惨なゲテモノが発明されたのは言うまでもない。
発案者は、近々農家を継ぐ予定の若者だ。年々若者が県外に流れてゆく様に終止符を打ちたいと、無い頭でなんとか考え出した結果だった。
馬鈴薯の煮物は普通の肉じゃがだし、馬鈴薯のケーキもインパクトに欠ける。『馬鈴薯牛乳プリン』なんて、名前だけ見たら、長崎と言うより北海道名物だ。
ようやく考え出した『馬鈴薯醍醐(ばれいしょだいご)』も、カッコイイのは名前だけで、言ってしまえばじゃがいものチーズであり、これもまた北海道名物を考え出しただけで終わった。
長崎は、北海道に次いで、馬鈴薯生産率2位である。
日本の端と端を繋ぐ県が馬鈴薯の上位にいるのだ。これがオセロなら、もうすでに日本は馬鈴薯大国になっている。
ちなみに3位は鹿児島。
本州を跨ぐ馬鈴薯オセロにはこの若者も気がついたようで、当初の【馬鈴薯大国プロジェクト】はすでに【長崎から北海道プロジェクト】として、意外にも上役の可決を経て、順調に作業が進んでいた。
すでに【馬鈴薯大国プロジェクト】から3年が経過している。
それからまた1年が経ち、同時刻に長崎と函館の駅で【長崎と北海道プロジェクト】イベントが開催された。
大画面スクリーンに双方のイベントの様子がリモートかつリアルタイムに放映され、その日だけは長崎も北海道もお隣同士になった。
【馬鈴薯展覧会】と題されたそのイベントは、名前の通り、馬鈴薯をテーマにした展覧会であり、料理やデザートはもちろんのこと、馬鈴薯の絵画や、アマチュア作家が作った馬鈴薯のイラスト、馬鈴薯の小説、馬鈴薯の絵本など、四方八方で馬鈴薯に関する物が販売されている。
若者がいちばん驚いたのは、これまで見向きもされなかった職場のマスコットキャラクター「ばれーしょくん」のぬいぐるみが飛ぶように売れたことだった。
初めは長崎と北海道、次は長崎と北海道と鹿児島、その次は……というように、次第にこのイベントは全国各地で同時刻に開催され、全国が一斉にリモートで繋がる、日本を興した一大イベントとなった。
「初めは長崎の馬鈴薯を全国一にしたかったんです。でも、生産率は北海道が78パーセントに対して、長崎はたったの5パーセント。単純に生産で越えることは出来ません。ならば馬鈴薯料理で名を挙げよう、と思ったのですが、これも北海道名物になりそうなものしか作れなくて。オセロをしながら考えてたんですよ。どうにかならないかなって。そしたら、日本の端と端じゃないですか、北海道と長崎は。あとは、まあ、オセロみたいにペンペンペン、っと裏返して、こういう、全国規模になったわけです、はい」
若者のインタビューはこんな具合だった。一部で「北海道をバカにしている」とのコメントもあったものの、それに対する北海道側の「長崎を貶すな」と反論もあり、プロジェクトは平穏無事に開催され、閉幕した。
今や日本を代表する食べ物は、寿司を超えて、肉じゃがが名乗りを挙げている。