電子鳩

※こちらは2023.3.18の伝習所まつりで皆さんに作っていただいた作品です 

今日は待ちに待った日曜日。柔らかな白色の鳩が届けものをしてくれるんだ。私が昔友人と送りあった手紙とは違うけれど、言葉の温かみは変わらないなあ。そう思いながら孫からの言葉を心に落としていく。

「おばあちゃん、あのね。雨が降って、せっかく咲いていた桜の花が散ってしまって悲しかったんだ。でも、地面が、花びらで。ピンク色になっていて、とても、きれいだったよ。」

 そこへ鳩が舞い降りてきました。鳩が止まった窓際に、ひらりと一枚、桃色の花弁が舞い落ちる。春の香りがする優しい花弁。もしかするとこの鳩は、孫と同じ景色を見てきたのかもしれない。あの鳩に会うために、私は色々な方法を試してみた。もし、鳩に出会ったらどうしよう。混じり毛一本もない、真っ白な鳩だった。街へ出ては、鳩を目で追うも、見つからない。ふいに、はらりと桃色が降ってきた。桜だった!!その時、あの鳩が天から飛んできた。どこからきたのだろう?とナゾに思う。そう、その鳩はあそこからきたんだ。あそこ。わたしがまだ若い頃くらしていた「現実」の場所。このデジタルの街でなく、空でなく、桜でなく、本物の空気や、においや音のある世界から来たのだ、この鳩は。わたしは鳩に向かって手をのばした。

私の身体を鳩が突き抜けた瞬間、いつか見たなつかしい日本の風景の中にいた。

ああ…何だろうこの感覚、ずっとこのままこの暖かい日だまりの中でまどろんでいたい。すると目の前に一羽の鳩が舞い降りてきた。そして次の瞬間、暖かい風と共に桃色の花びらが大量に降りそそぐ。美しい…そう思った時だった、目の前になつかしいあの人、そう、おばあちゃんだった。私はあふれる涙もそこそこにかけ寄った。

夫の転勤で長崎に移り住んだら思いのほか居心地が良くて、早10年超え。結果、夫は今離れた地で単身赴任となってしまいました。